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東京地方裁判所 昭和41年(行ウ)135号 判決 1970年6月27日

原告 嵩元幸助

被告 玉川税務署長

訴訟代理人 富田孝三 外三名

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、被告が東亜無線(株)に対する法人税等の滞納処分として、昭和四〇年五月一七日別紙目録記載の建物に対し差押処分をなし、同月二四日その旨の登記手続を経由したことは当事者間に争いがない。

二、原告は岡本建設工業株式会社に依頼して右建物を建築させ代金を支払つて、その所有権を取得したと主張するので、考えてみると、<証拠省略>によれば、次の事実が認められる。

原告は昭和三四年三月頃東亜無線(有)の代表取締役としてその運営にあたつていた当時、その工場に使用するため、岡本建設工業株式会社に請負わせて右建物を建設したものであるが、その資金には、当時その妻であつた加藤チヨの母加藤きく名義および架空人たる山田光子名義の協和銀行中目黒支店の普通預金ならびに加藤幸雄名義の城南信用駒沢支店の預金から払戻しを受けた現金を充て、また右請負契約の締結には加藤きくの名義を用いた。そして、右建物はその後東亜無線(有)が、また昭和三六年二月二五日以降は東亜無線(株)(東亜無線(有)につき組織変更をなしたもの)がそれぞれ工場として使用し、右各会社とも加藤きく宛にその賃料を支払つたが、原告と加藤チヨとの結婚生活に破綻の生じた昭和三九年三月以後、東亜無線(株)はその支払先を原告に改めて、経理した。

以上の認定に反する証拠はない。

ところが、<証拠省略>によれば右建物の建築資金に供された加藤きく名義および山田光子名義の普通預金はいずれも東亜無線(有)の売上金等の一部が預け入れられたものであつて、同会社のいわゆる簿外預金であることを窺うことができ、原告本人の右認定に反する供述部分は措信ずることができず、ほかに右認定を覆すに足りる証拠はない。また、右建築資金に供された加藤幸雄名義の預金が原告の資産に属したことについては、これと同旨の原告本人尋問の結果(第二、三回)はたやすく措信しがたく、他にこれを肯認するに足りる証拠はない。のみならず、右建物について昭和三九年一〇月一五日東亜無線(株)名義により所有権保存登記がなされたことは当事者間に争いがないのであつて、右建物が原告個人の建築にかかるものであつたことの徴憑たるべき外形的事実は全く存在しない。

一方、加藤きくが東亜無線(有)および(株)から右建物の賃料の支払を受けた経緯ならびに右建物につき東亜無線(株)のため所有権保存登記がなされた経緯に関する原告の前掲主張については、供述自体から当裁判所の心証を動かすに足りない原告本人尋問の結果(第一ないし三回)を除いては、これを窺わせる証拠はない。

そして、以上の事実関係に照すときは、右建物が原告において、これを建築し、その所有権を取得したものであるという原告の主張に合致する原告本人の供述(第一ないし三回)もまた措信しうるものではなく、ほかに右主張を肯認すべき証拠はない。

三、してみると、原告は右建物に対して被告がなした差押処分の無効確認を求める本訴を提起するについては、ほかになんら法律上の利益を有することの主張立証をしない以上、結局原告適格を缺くものといわざるをえない。

よつて、本訴請求は、その余の判断をするまでもなく不適法というべきであるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 駒田駿太郎 小木曾競 藤井勲)

別紙目録<省略>

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